障害者雇用促進法の改正


精神障害者の雇用義務化とは

佐藤宏 (元・職業能力開発総合大学校)

はじめに
このほど厚生労働省の労働政策審議会障害者雇用分科会で、障害者雇用促進法を改正し、「精神障害者を雇用義務の対象とする」との意見書がまとまりました(平成25年3月14日現在)。
ところで、現在、精神障害者を雇用した場合には、その数を「実雇用率」にカウントできることになっています。
しかし、現行の制度は、いわゆる「みなし雇用率」制度といわれるものであり、精神障害者の雇用を事業主に直接義務づけているものではありません。では、精神障害者の雇用義務化が実現すると制度はどのように変わるのでしょうか。

見なし雇用率制度とは
この点を明らかにするためには、現行の法定雇用率がどのように定められたかを見なければなりません。民間企業の法定雇用率は、今年4月から2・0%に引き上げられます(従来は1・8%)。その根拠は、身体障害者及び知的障害者である常用労働者数と失業者数の合計をわが国の常用労働者の総数で除して得た割合に基づいています(なお、これには短時間常用労働者も含みますが0・5人と計算)(図のA式)。
障害者雇用率
つまり、全ての企業が法定雇用率(2・0%)を達成するとすべての身体障害者及び知的障害者の完全雇用が実現することになります。
しかし、この式の分子には精神障害者の数は含まれていません。このため、現行制度では、精神障害者を雇用した場合は身体障害者または知的障害者を雇用したものと「見なして」、実雇用率にカウントされます。いいかえると、身体障害者や知的障害者の雇用の枠を、いわば「借りて」いることになります。

精神障害者の雇用義務化の意義
精神障害者の雇用義務化が実現した場合の意義は、なによりも、精神障害者の雇用が事業主の責務であることが法律に明記されることにあります。
それとともに、法定雇用率の算定式も図のB式にように変わります。
すなわち、A式の分子に精神障害者の数が加わりますので、当然、法定雇用率はその分だけ高まることが予想され、それだけ精神障害者はもとより(これまで枠を貸していた他の障害者にとっても)雇用機会が高まることになります。
もっとも、精神障害者の雇用義務化が実施されるまでには、なお、検討課題が残っています。
たとえば、失業者を含めた精神障害者の数をどのように把握するかによっては法定雇用率の数値(αの部分)が変わりますので適切な算定を行う必要があります。
また、法定雇用率の大幅な引き上げが急激に行われれば、事業主側の負担が大きくなりすぎるかもしれません。
あるいは、せっかく制度ができても事業主側の受入体制が整わないと精神障害者の受け入れは現実には進まないかもしれません。
このため、企業への支援体制の充実をはかるとともに実施時期についても、5年後の2018年4月とある程度準備期間が置かれるとみられます。
働きたいと願っている精神障害者の方たちは大勢います。精神障害者の雇用義務化が実現し、働く場が広がるためには、こうした点についての国民的な理解が求められます。

※NPO法人全国精神障害者就労支援事業所連合会,「Job Mentor24号」,平成24(2012)年発行より許可を得て転載しました。

 

参考資料:平成27年の「障害者雇用状況」