第2回(「こころの元気+」2017年5月号掲載)


第2回
松村りかさん
アスパラガスの会(代表):大阪府
アスパラガスの会:http://asparanet.com/
個人ブログ(アスペルガーライフブログ)のURL:http://asdlife.net/

このコーナーは、発達障害のさまざまな当事者、支援者の方に、言いたいことを伝えてもらうリレー連載です。

 アスペルガー症候群者の当事者会をやってみたいと言ったときの主治医の言葉は、
「やめたほうがいい、トラブルが起こって続かないから」でした。
 その言葉をアドバイスと受け止め、仲間と知恵を出し合って始めたアスパラガスの会も今年で9年目。

支援は増えていても

 会合の場では支援にまつわる話を聞くことも多いのですが、その中でしばしば私が感じるのは「ミスマッチな支援や配慮が多い」ということです。
 10年前と違い、制度もある程度整い、診断可能な医療機関や支援をする機関も増えています。にも関わらず、当事者の暮らしにくさを解消する方向に向かわない支援や配慮がまだまだ多いように感じます。
「周囲の理解と配慮があればうまくいく」と言う専門家は多いですが、私にはどうもそれでは解消しない部分が大きいように思うのです。
 発達障害というと「空気の読めなさ」に代表されるコミュニケーションの障害が取り上げられますが、「特有の言葉づかい」「特有の関わり方」を周囲が理解してその人に合わせて、つまり周囲が翻訳役をつとめるといったことには限界があるような気がします。

マシンガントークの原因

 発達障害者の中には、話を始めるとなかなか止まらず質問する隙もないくらい一方的に話しをする、いわゆるマシンガントークをする人がたまにいますが、やはり一方的な話を聞き続けるというのは聞く側にとってはたいへんです。話す側が「全部聞くという配慮」を期待していたら「話しを十分に聞いてもらえない」という不満も生じます。
 そもそも、マシンガントークは障害特性なのでしょうか?
「1回で正確に相手に伝わるよう話さねばいけない」という思いが強すぎて話が詳細になりすぎていたAさん。
 語彙の意味の取り違えから気持ちがうまく伝わらず、もどかしさについつい言葉数が増えてしまっていたBさん。
「誰かといるときに会話がとぎれてはいけない」と思いこんでいたためにずっと話し続けていたCくんなど。
「ちょっとした知識の不足や誤認」が原因でマシンガントークをしてしまっていたのです。
 発達障害者では感覚の問題や注意の向け方などの特性から1点集中でものごとを見てしまいがちなことも多く、そのため定型発達者(発達障害のない人)が無意識に学んでいることを学び損ねていることがしばしばあります。
 コミュニケーションに限ったことではありません。
 ある日、Dさんが「今日は自転車で危険な運転する人がとっても多かったんですよ!」とひどく憤っていました。話にちょっと違和感を感じた私が、ひょっとして…と、「ブレーキかけた?」と聞いたところ「え? ブレーキですか?」とキョトンとするDさん。
 どうやら「自転車の運転で目的地や赤信号以外でもブレーキで速度を調節したり停止したりして安全を確保する(危険を回避する)」という知識がなかったことがDさんの憤りの原因ということがわかりました。謎が解け、Dさんの憤りはあっけなく解消しましたし、前より安心して自転車に乗れるようになったとのことです。

学びを応援する支援こそ

 こういったことを見聞きするにつれ「周囲が受け入れて配慮」で解消しないことも多いように思えてくるのです。
 感覚の問題や、そこからくる疲れやすさ、注意の向け方などといったことについては、適切なツールの利用も含め、十分な理解や配慮があってほしいところですし、それは本人の能力を伸ばしていくために、なくてはならない部分だと思います。
 ですが、社会的な部分での暮らしにくさの解消や生活スキルの向上を考えるのであれば、学び損ねの発見も含めた「学びを応援する支援」こそが発達障害者の自立につながる支援であるような気がしてなりません。