統合失調症患者 710名とご家族689名を対象とした実態調査を実施

~主治医との治療目標(=再発防止)の共有がポイント~
特定非営利活動法人 地域精神保健福祉機構・コンボでは、統合失調症の患者さんとご家族を対象に、疾患と治療に対する意識や行動を把握することを目的としてアンケート調査を実施しました。

今回の調査は、コンボが発行している機関誌「こころの元気+」の購読者へアンケート用紙を配布し、回答の得られた統合失調症の患者さん(710名)とご家族(689名)を分析対象としています。精神疾患の患者さん・ご家族双方の意識を対比させることを目的とした調査は、国内初の試みです。
統合失調症の治療は長期にわたることが多い中、病識を持ちにくい、判断力が低下するなどの疾患特性から、治療が中断し、状態が再び悪化してしまうケースも少なくありません。症状の悪化は、患者さん本人だけでなくそのご家族にとっても大変な負担となります。
そこで今回、統合失調症治療の実態と、治療継続のために必要な情報・サポートについて、調査を行ないました。
なお、この調査は、日本イーライリリー株式会社の協力を得て実施されたものです。

1.統合失調症患者さんの約半数が、自己判断による服薬中断を経験 【グラフ①】
自分の判断で薬の服用をやめたことがある患者さんは48.1%と半数近くに上りました。
今年発表された統合失調症のご家族対象の調査※1では、患者さんの7割以上が1ヶ月以上治療を中断したことがあるとの報告もあり、統合失調症における服薬継続の難しさがうかがえる結果となりました。 ※1「家族支援に関する調査報告」特定非営利活動法人全国精神保健福祉会連合会

2.自己判断で服薬中断した患者さんのうち、約8割が再発を経験 【グラフ②】
自分の判断で薬の服用をやめたことがある患者さんのうち、78.5%が再発を経験していました。服薬の中断が、再発につながっていることが示唆されます。

3.服薬中断の理由は「副作用」がトップ  患者さんは「薬に頼らず自分で治したいと思った」、
ご家族は「患者自身が病気だと思っていなかった」と考えている 【表①】

患者さんが服薬を「やめた」「やめようと思った」理由として最も多いのが「副作用のつらさ」、続いて、「薬に頼らず自分で治したいと思ったから」「薬を飲むことに対して納得していなかったから」という理由が挙げられました。一方、ご家族の理由では、「副作用のつらさ」は同程度でしたが、次に多いのが「患者自身が病気だと思っていなかったから」でした。
患者さん自身の考えとご家族の認識に、若干の差がある実態がうかがえます。

4.実際に服薬中断した人は、薬を飲むことに納得していなかった割合が高い 【グラフ③】
服薬を「やめたことがある」人と「やめようと思ったがやめなかった」人を比較すると、実際に服薬を中断した人は「自分が病気だと思っていなかった」「薬を飲むことに対して納得していなかった」を理由にあげた割合が高いことが示されました。一方、服薬中断しなかった人は「副作用」「薬の効果が感じられない」「一度に飲む薬の量が多い」など薬剤関連の理由を多くあげていました。
薬剤関連の理由は、やめようと思うきっかけにはなるものの、それだけでは服薬中断に至っておらず、病気や服薬意義についての理解不足が、実際の服薬中断につながっている可能性が示唆されました。

5.患者さんの服薬継続の理由トップは「再発を予防できると思ったから」 【表②】
一方、「薬をやめようと思ったがやめなかった」、「やめたことはない」と答えた患者さんは、薬の服用をやめなかった理由について、「薬を飲むことで再発を予防できると思ったから」が最も多く、次いで「主治医の指示通りに飲まなければ病気は良くならないと思ったから」、「薬の効果を実感したから」という結果となりました。この背景には、症状を抑えるという薬の短期的な効果だけではなく、再発を予防するという長期的な効果を理解・期待していること、副作用のつらさよりも、再発をしたくない、という気持ちが強く、それが治療の継続につながっていることが示唆されます。
一方、ご家族は、患者さんが薬を飲み続ける理由として、「主治医の指示通りに飲まなければ、病気は良くならないと思ったから」を挙げた人が最も多く、再発を避けたいという患者さんの強い気持ちとは少し異なる結果となりました。

6.服薬継続のポイントは、主治医や薬剤師との綿密なコミュニケーション 【グラフ④⑤】
薬の服用をやめたことがない患者さんの方が、やめたことがある患者さんよりも、薬剤や再発のリスクについて得た情報の理解・納得度が高い傾向がみられました。
また、再発予防への具体的な取り組みとして、「主治医の指示があるまでは治療を中止しない」、「調子の悪い時は主治医や家族など信頼できる人に相談する」、「主治医の指示通りに服薬する」を挙げた人が多く、再発をしないためには主治医をはじめとする周囲とのコミュニケーションが重要であることがうかがえます。一方、家族は「患者さんが、ストレスを軽減したり、なるべくためないようサポートする」を挙げた人が最も多く、患者さんと主治医と同じ「治療の輪」の中でサポートするというよりは、患者さんと主治医の関係を側面からサポートしている傾向にあることがうかがえます。また、「何もしていない」という家族は非常に少なく、アンケート回答者が治療に協力的な層であることがわかります。

7.患者さんの理解・納得度の向上と再発予防の関連性を示唆 【グラフ④⑥】
今回の調査では、患者さんの大半が「自分が納得できるまで説明してくれる主治医・看護師・薬剤師」を強く望んでいるにも関わらず、主治医の説明を理解・納得できている患者さんは約半数に止まっている実態も明らかになりました。主治医らによる説明が十分に理解されていないことは課題であるとともに、より分かりやすい説明をすることにより、きちんと服薬する患者さんが増え、再発予防につながる可能性がある、とも考えられます。

コンボ共同代表理事で、独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 社会復帰研究部の伊藤順一郎先生のコメント。 「今回の調査はコンボが発行する機関誌の読者を対象に実施したため、疾患や治療に対して意識が高い人の回答が多かったことが特徴として挙げられます。しかし、そのような方々でも半数近くが服薬を中断しており、そのうち約8割が再発を経験していました。中断の理由として副作用が多く挙げられており、医療者側のさらなる改善や努力が必要だと考えられます。こうした課題を解決するには、医師の説明だけでなく、様々な機会を捉えて患者さんや家族が正しい情報を得ること、また、副作用を減らせるように医師が薬剤の処方を工夫することが不可欠です。今回の調査では、患者さんと家族の間で、治療や薬剤に対する認識にそれほど大きな差がみられませんでした。この点を踏まえると、医療者との良好な関係を構築し、的確な情報を得ることで、患者さんはよりよい生活を送るための対処能力を十分に備えていることを示唆しているのではないでしょうか」。

コンボの桶谷事務局長のコメント。
「今回、統合失調症患者さんとご家族それぞれの意識を対比することで、大変興味深い知見を得ることができました。特に服薬をやめた理由について、患者さん自身は『薬に頼らず自分で治したい』と考えているのに対し、ご家族は『患者自身が病気だと思っていなかった』という意見が多くみられました。この背景には、患者さんが自らの治療について考えた上での行動を、ご家族や周囲は単に『病識がない』と受け止めてしまっているといった認識の相違があると推察しています。統合失調症の患者さんの治療参加意思を理解・尊重し、患者さんが納得して治療を続けられるよう、私たちも正しい情報の提供と、周囲とのコミュニケーションをサポートする活動を続けていきたいと思います」。

2010年8月4日

特定非営利活動法人地域精神保健福祉機構(コンボ)

■コンボについて
特定非営利活動法人 地域精神保健福祉機構・コンボ(千葉県市川市)は、2007年2月に創設したNPO法人。主な事業は、月刊メンタルヘルスマガジン「こころの元気+」(1万部)の発行、精神保健福祉に関する調査・研究、ACTやIPSといった新しいリハビリテーションプログラムの普及活動などを行う。
団体名「コンボ」の由来は、Community Mental Health& Welfare Bonding Organizationの頭文字。

■日本イーライリリー株式会社について
日本イーライリリー株式会社は、創業130年を超える歴史がある、米国インディアナ州インディアナポリスに本社を置く製薬会社、イーライリリー・アンド・カンパニーの日本法人。日本では、がん、骨粗鬆症、糖尿病、成長障害、統合失調症、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、うつ、をはじめとする、がん領域、内分泌・代謝・骨領域、中枢神経領域における治療法を提供している。医薬品と情報の提供を通じて、世界の最も急を要する医学的ニーズへの「こたえ」を提供しています。

調査結果

■調査概要
1.調査目的:統合失調症患者さんおよびその家族における、疾患と治療に対する知識・認識・行動の現状を把握し、今後のよりよい治療のあり方に寄与する
2.調査対象:統合失調症患者、統合失調症患者の家族
3.調査エリア:全国
4.調査手法: 郵送調査。コンボが発行する雑誌「こころの元気+」にアンケート用紙を同封のうえ郵送。配布対象は主にコンボ会員(患者、家族)であるが、アンケート用紙を受け取った会員が周りの非会員へ協力を呼びかけ、アンケートに回答してもらった人も含めている。
5.調査日程:2010年5月1日~5月31日
6.サンプル数:患者 710サンプル、家族 689サンプル (有効回答数※)
※精神疾患患者1123サンプル、家族 923サンプルから、統合失調症のみ抽出して分析
7.回答者の年齢構成・男女比

■主な調査結果
[グラフ①] 処方された薬を自分の判断でやめたことがあるか

[グラフ②] 自分の判断で薬をやめた結果、再発したか

[表①] 薬の服用を「やめた」もしくは「やめようと思った」理由

患者さん
ご家族
1.副作用が気になったから、つらかったから 1.副作用が気になったから、つらかったから
2.薬に頼らず自分で治したいと思ったから 2患者さん自身が病気だと思っていなかったから
3.薬を飲むことに対して納得していなかったから 3.薬を飲むことに対して納得していなかったから

[グラフ③] 実際の服薬中断の有無と「やめようと思った」理由

表② 薬の服用を「やめなかった」理由

患者さん
ご家族
1.薬を飲むことで再発を予防できると思ったから 1.主治医の指示通りに飲まなければ、病気は良くならないと思ったから
2.主治医の指示通りに飲まなければ病気は良くならないと思ったから 2.薬を飲むことで再発を予防できると思ったから
3.薬の効果を実感したから 3.薬の効果を実感したから

[グラフ④] 服薬中断の有無と情報の理解・納得

[グラフ⑤] 再発を予防するために実行していること

[グラフ⑥] 再発を予防するために望まれる情報・サポート